
本コンペの特別査委員長であるアートディレクター・浅葉克己氏と、
アートヒア1.0ゴールド賞を受賞したアーティスト・山下良平氏に
受賞の経緯、そして2.0へ応募されるアーティストへのメッセージを語って頂きました。
他では語られることのないお二方のアート・デザイン観は必見です!
一枚の看板から世界を変えようという姿勢はすごいと思った
------------浅葉さんは時代ごとにインパクトの強い広告アートディレクションやタイポグラフィー作品を手掛けられています。アートヒアでは一回目(1.0)に続いて、2.0でも審査員長を受けられたきっかけはどのようなものだったのでしょうか?
僕は「全日本プロ審査員協会会長」として、年間50本くらいアートコンペの審査員をやっているんだけど、コンペってまずそれぞれが僕に刺激を与えてくれる、ってところが面白い。
(編集部注:「全日本プロ審査員協会」というものは存在しません。あくまでもイメージです)
僕が手がけてきた広告も、ビルボードとして掲げられたものが多いんだけど、やっぱり見た人が衝撃を受けるようなものを作れていた気がするんですよ。それだけビルボードの影響力はすごい。
ニューヨークの街は、広告表現がビルボードがメインという時代があったんですよね。ロス・アンジェルスもビルボードの街だし。
今回、アートヒアも受賞作品がビルボードになるっていうことで、「やっぱりビルボードって面白いんだな」と。それで興味を持ったのが大きなきっかけかな。
------------最近は都心でも空き看板が多く見られますが、広告媒体としてのビルボードは縮小傾向にあるのでしょうか?
あまりないですよね。メディアが分かれちゃったのかな。「インターネットでいいや」みたいなね。だからこそ、アートヒアはすごいなと思って。もう一度、その1枚の看板、アートから世の中を変えてしまおうという姿勢に賛同しました。
------------受賞作品がビルボードになる、というコンペは他に無いのでしょうか?
これだけ大きなサイズで、しかも「街を活性化させる」という目的を持ってビルボードを提供しているコンペはないと思います。
浅葉克己氏の仕事。そのどれもが巨大ビルボードになり、街に刺激を与え続けてきた。
浅葉先生にとって、アートやデザインとはどういうものなのでしょうか?
人類が生き延びるための知恵、かな。アルタミラ洞窟ってあるでしょ? あれがまぁ美術の原点ですよね。今は壁が崩れてしまうから、見せてもらえないんですけど。あれが美術すなわち芸術の原点だとすると...芸術は人類が生き延びるための知恵なんだよね。あれを描いた人は、楽しんで牛や羊の絵を描いていたわけじゃない。どこを攻めたら捕れるのか、狩猟のための訓練だったとも言われてるんだよね。色々説はあるみたいだけど。
現代では洞窟ではなく、都市のあらゆる場所にアートやデザインがある。それは企業の広告も含めてね。その表現された1枚のアート・デザインは、その人類が生き残る知恵だって考えると、とても面白いし、デザインは永遠に生き残ると思うんだよね。
------------今年、日本国内では東日本大震災や台風など、大きな自然災害が立て続けに起こりました。そんな今、「人類が生き延びる」というキーワードはとても強い意味を持っているように感じます。
アルタミラ洞窟は1万8千年前〜1万年前のものだと言われているけれど、大昔から人類の基本というのは変わっていないと思うんですよね。時代も国も関係ない。
北スペインに行くとね、ピカソのゲルニカ(の複製画)がいたるところに飾られているんですよ。レストランにも個人の家にも。あれは平和を願うメッセージが込められているんですよね。アートを通して人々に伝えようとしているし、人々も日常的にそのメッセージを受け取っているんです。
日本だと、仏画や仏像に同じエネルギーを感じますけどね。
ああ、確かに。宗教画も同じなのかな。
アートヒアのビルボードからもメッセージを受け取ってほしいですよね。福岡の街の中心に掲げられて、見るたびに何か強いエネルギーを感じたり、ワクワクしたり...。自分の中の何かが変わる、という強い影響力を持っていると思うから。
------------山下さんにとってアートはどんなものですか?
僕にとって、アートは「心のスポーツ」なんです。心が健全でなければ、絵は描けないと思っています。
なるほど。そうやって、自分が「こうだ!」と思うものがあるといいよね。絵にしっかり現れてる。
見る人に衝撃を与える絵、時代を変える力のある絵を求めていた
------------集まった応募作品を見ての感触は? どのように感じましたか?
かなり多様な表現が見られましたね。上位に残ったのはどれも看板になっても いいかなと思いました。1点だけに絞らなければならないのが残念だったな...。
審査基準ってあったんでしょうか?浅葉先生ご自身の中に。
「これが出たらちょっと時代が変わるかな?」と思う作品を選んだかな。街がガラッと変わる絵がほしかった。見る人にショックを与えられるかどうかが一番のポイント。見た瞬間に思わず「ワオ!」と声が出てしまうような。
------------なるほど。数多くよせられた作品の中で、山下さんの絵が最も「時代を変える力」があったということでしょうか。
そうだね。今この絵から日本の再出発のメッセージを感じる人も多いんじゃないかな。油絵という技法もよかった。
ありがとうございます!
"Just like a rolling stone" extra final version
そもそもどうして応募しようと思ったの?
福岡の地元の友人から、「受賞作品が大きな看板になるコンペがあるけど出してみないか」っていう電話が急に掛かってきたんですよ。その時は聞き流す感じで、「うーん、ちょっとめんどくさいなぁ」とか思ったりして(笑)。
------------作品をコンペに出されることは、あまりないんでしょうか?
そうですね。コンペそのものにそれほど興味がなかったんですよね。でもその友人がわざわざ電話してきてくれたので、アートヒアのサイトで、コンペを開く経緯や主催のワクワクコミュニケーションズの意図なども読み込んでみたら、「これは自分のためにあるコンペだ!」っていう直感を感じたんです。それでじっくり考えてみようと思って。
それともうひとつ。ちょうど今年は、イラストの仕事を始めて10年で、ひとつの区切りとして何かこう大きなことをやってみたいというのはありましたし、やったことに対する答えもちょっとほしいなって思ったことがきっかけかもしれません。
------------コンペへの応募を決断されてから、どのように作品を詰めていったのでしょうか?
友人から電話をもらったのが、2010年の7月頃で、それからずっと何を描くか考えていました。仕事の合間合間に少しずつラフを煮詰めていって、応募締め切り日ギリギリまで粘って、一気に油絵を仕上げました。その作品に関わっている時間は、地元福岡に対して色々想いを馳せる良い時間になったんですよね。自分の心の浄化ができたことがすごく大きくて。アートヒアに参加するだけで癒されたというか。
浅葉氏の後ろには、2.0のキービジュアルに採用された山下氏の作品が。
それはすごいことですね。何点か仕上げた中から厳選したの?それとも1点を決め打ちで?
友人から話を聞いた時点で、不思議なことに完成形に近い絵が頭に浮かんだんですよ。パッとフラッシュのように光が見えて、その光の方へ向かう、という漠然としたイメージですが。あとはそれをどうブラッシュアップするかという感じでしたね。スケボーは、後で付け足す要素ですから、ローラースケートだったり、バイクだったりと結構変わったんですけど、基本的なコンポジション、光に向かって走るという構図は閃いたイメージから変わっていません。
奥行きのある絵だよね。やっぱり構図がいいんだろうね。
看板自体は平面ですが、看板を前後に突き抜けるようなイメージで描こうと意識しました。看板に向かって、風が吹き抜けるような、もしくは看板から吹きつけているような感じでしょうか。平面ではなく、平面から縦方向、奥行き方法に力が感じられる絵を描いてみたいと思ったんです。
------------絵にこめられた思いはどのようなものだったのでしょう?
28年間過ごした福岡への、自分なりのリスペクトでありトリビュートアートですよね。この絵に描かれているのは百道(ももち)という場所なんですが、海があって、福岡タワーがあって...。その他、福岡ドームやシーホークホテルと言った未来的な景観もある。そういった環境で20代を過ごしたんです。若い頃、ドライブしたり、海辺で花火したり、思い出がいっぱい詰まってる場所。そこへ簡単に立ち返ることができるような絵を描きたかったんです。
------------今回の受賞作品は、現在福岡にお住まいの方だけではなく、福岡出身で今は別の場所で頑張っている方にも、パワーを与えられるかもしれませんね。
そうですね。福岡で育った人が見ると、「おぉー!福岡タワーや!」と懐かしく思うはず。地元の人は新しい開発地域に気持ちが動きがちなので、もしかしたら福岡出身者の方が感動してくれるかもしれません。今回、審査会の意見もそこで分かれたそうですね。もう福岡百道の時代ではないという声もあり、...完全に意見が2つに分かれたと聞きました。
------------受賞の報告を受けられた瞬間はどのような感じでしたか?
今回は、事情が事情なだけに、受賞の報告を2回受けていて...。※
一度目は佳作入賞の報告、二度目は東日本大震災の影響により再審査をします、という連絡を受けました。その後にまたメールを頂いて、「再審査の結果、『Just like a rolling stone 』が受賞しました」という文字を目で追った記憶があります。ちょっと朝寝ぼけてて、状況がよくわからぬままに...(笑)。
(※編集部注:受賞作の発表直後の3月11日、東日本大震災が起こり、当初のグランプリであった谷川礼さんの「Human wave」が津波をモチーフとした作品だったため、協議の結果、再審査となりました)
(※編集部注:受賞作の発表直後の3月11日、東日本大震災が起こり、当初のグランプリであった谷川礼さんの「Human wave」が津波をモチーフとした作品だったため、協議の結果、再審査となりました)
予想もしてなかったんだ?
そうですね、よくわからなかったです。「何!?え!?あー!?」みたいな(笑)。でも、実は初めから自分の絵が大きな看板になることはイメージできていたので、「あっ、OK!」って感じかもしれない。
まあ、自信作ですよね?
自信...うん、そうですね。今回は、自分とその看板との対話のような感じがしていて。何百もの応募作品の中から選ばれる云々というよりも、ただそこに自分の絵が相応しいか相応しくないかだけを意識して描いたんです。最初に相応しいビジュアルが浮かんだ時から、もうこれは多分看板として掲げられるべき、というか、なるんだろうなって。なんか不思議 な感覚だったんですよね、初めから。だからこう、飛び上がって喜ぶようなことはなかったんですけど、じんわりじわじわと「あぁ、嬉しいな」って...(笑)。
巨大ビルボードになってみてどうだった?
もう、何て言ったらいいのか...一つの看板が生命を持った、って言うとちょっと大げさかもしれないですけど、生命を持って、ビジュアルが独り立ちしたと感じました。自分の手から離れて旅立った、という感覚です。
それ、ありますね。とてもよくわかる。
だから、福岡に帰る時は看板に「会いに行く」ような感じですよね。「見に行く」じゃなくて、「会いに行きます」っていう。
「看板に会いに行く」っていいね(笑)。24時間ずっといて、動かないからね。
僕もあの看板を一番最初に見た時は、やっぱり選んで良かったなーと思いましたよ。「出たー!」っていう感じ。
「出たー!」ですよね(笑)。
「豪華に出たー!」って。
------------看板の「跳べ、人へ」というタイポグラフィ は浅葉先生が手がけられたそうですが...。
最終ギリギリでよりアートを邪魔しない、絵を活かすようなさりげないデザインのものに変えました。
浅葉先生には、ワクワクメールの看板ロゴも作って頂いているんですよ。
今回のプロジェクトで、掲出を中止したワクワクメール広告は、
リニューアルして中洲・春佳橋に移設しました。
看板の「ワクワクメール」のロゴは浅葉克己氏がデザイン。
------------山下さんは、元々似顔絵師として活動を始められたそうですね。
はい。1994年頃から、ストリートで似顔絵を描き始めました。そのルーツというか、ライブ感を大切にしたいと思っていて、今も定期的にライブペイントを行なっています。
------------今年のサマーソニックでもライブペイントを行ったそうですね。ライブペイントの醍醐味はどのようなところにあるのでしょうか?
はい、2009年のサマーソニックで初めてお声掛けをいただいて、それを見た別のイベントの関係者が声を掛けてくださって、ライブペイントを行うことも少しずつ増えてきました。
絵を描く過程って、一般の方はなかなか目に触れる機会がありませんから、皆さんとても興味を持って見てくれて、感動してくれるんです。それが、また描き手の原動力になるんですよね。描いている側と、見ている側にエネルギーの交換があるようなイメージ。これがライブペイントの醍醐味ですね。
「きづな」というテーマに込められた想い
------------アートヒア2.0のテーマは「きづな」です。お二人は「きづな」という言葉を聞いてどんなことを思い浮かべますか?

copy by yoshihiro IWANAGA Design by Katsumi ASABA
昔からある言葉ですよね「きづな」。漢字もいいんですけどね。糸偏が半分で絆でしょ? 糸を半分ずつ結んで繋げるんだよね。
でもあまり意識して使わないですよね。どうして次回のテーマは「きづな」になったんですか?
次回のテーマ「きづな」は、初回のテーマである「ワクワク」から、もう少し踏み込んで、今一番必要で、みんながリアルに感じられるテーマはなんだろう?ということで考えて頂きました。きづな=気の綱 絆=糸半分がつながる、という二つの意味を持たせています。人と人のつながりや関係を表しているので、私たちが取り組んでいるSNS事業が提供したいと思っているものにシンクロしている、というのも決め手のひとつでした。
そして、大震災を経て劇的に世の中が変わりゆく中で、未来に向けて協力し合おうとする気持ちも「きづな」なんですよね。まさに、今の時代を象徴するコトバだと思っています。
日本復興っていうのは圧倒的に大きなテーマですよね。だから「きづな」はとてもしっくりくる。
僕は「きづな」って...結構重いなーと思いました。もともと僕は絵を描くときに、言葉から入らないんです。言葉に縛られてしまう気がして...。「きづな」って重いテーマですよね。人と人の繋がりだけではなく、命がかかっているから。たとえば「母がいなけりゃ自分がいない」というような、命でつながっているものが「きづな」だと思うんです。もし僕がもう一回挑戦するのであれば、それをどうあの看板にぶつけるか、ものすごく考えるでしょうね。
2.0も応募するの?
うーん...まだわからないです...。ちょっと生半可な思いでは描けないですね。
「きづな」に対する自分なりの答えが見つかったら、僕も応募してみようと思います。
「きづな」に対する自分なりの答えが見つかったら、僕も応募してみようと思います。
------------では、アートヒア2.0に応募を考えられているアーティストの方々へメッセージをお願いします。
自分が信じている思いや表現をストレートに出してほしいですね。もう「これしかない!」って思っていることがあるはず。そのためには色々な世界を、見た方がいいと思います。地球上では色々なことが起きてますから。それらをうまく、スパッと「きづな」で切ってもらいたいな。
ファーストインプレッション、最初に浮かんだイメージってとても強いと思います。結局僕はコンペの話を聞いて、まず光が思い浮かんで、そこに向かうという漠然としたイメージから始まったので。最初に自分が感じた印象を大事にしてほしいですね。
ファーストインプレッション、いい言葉ですね。
そしてできるならば現地に出向いて。
実際の看板を見てインプレッションを感じて欲しいですね。
机の上で考えていても、なかなか出てこないからね。
そうですね。せっかくなのでコンペを楽しんでほしいです。博多で美味しいもの食べて満喫して、空気や匂いを感じて。視覚プラス嗅覚、音で福岡を感じてもらった人はいい絵が描けると思いますよ。
それと、自分が今回初めて賞をもらって思ったのは、結局縁というか...人の縁がうまく絡み合っていただけるものなので、そう焦る必要はないかなと思うんです。もし今回が駄目でもまた次、絶対その人に縁が巡ってきますから。
うん、確かに。コンペは一種、才能のあるアーティスト探しだからね。
こうやって浅葉先生と知り合う機会をいただけましたし、関係者のみなさんともこうやって縁をいただけたのが、一番の成果だと思っています。
------------最近では、雑誌の表紙を手がけられたり、来年は個展の開催も控えていらっしゃるそうですね。
はい、雑誌「Tarzan」とオハヨー乳業がコラボしたコーヒーのパッケージや、「Tarzan」の表紙イラストを担当させて頂きました。来年は、大阪の三越伊勢丹「DMO ARTS」で個展を開催予定です。とてもありがたいことに、アートヒアで受賞をしたことをきっかけに、新たな仕事の機会を頂くことが増えました。
アートヒアでの受賞を機に、どんどん仕事が広がってるってすごいよね。でもそれもシビアな生き残りだからね。「自分の生き残りのためにアートとデザインをつくれ!」っていうことだね。
------------インタビュー冒頭の「アート・デザインとは?」という答えにうまくつながりましたね。浅葉先生、山下さん、本日はありがとうございました!
みなさま、アートヒア2.0へのご応募お待ちしております。再び様々な「きづな」が生まれることを期待しています。

2011年10月13日 19:29

